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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)8850号 判決 1976年11月02日

原告 ユニバーサルリース株式会社

被告 渡部茂 外二名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告らは原告に対し、各自、二一六万円及びこれに対する昭和四九年二月一日から支払ずみまで日歩四銭の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、リース業を営む会社であるが、昭和四八年六月三〇日被告渡部茂(以下渡部という。)に対し次の約定によるリース契約を締結した。

(一) リース物件 酒田市中町二丁目「喫茶オスカー」の店舗内装、空調、厨房設備一式(以下本件物件という。)。

(二) リース期間 昭和四八年六月三〇日から同五一年六月三〇日まで。

(三) リース料 月額八万円

(四) 右支払方法 契約時に三か月分を前払いし、昭和四八年七月から同五一年三月まで毎月八万円づつを毎月三〇日限り支払う。

(五) 遅延損害金 日歩四銭

(六) 期限の利益喪失特約 被告渡部がリース料の支払を一回でも遅滞し、または支払を停止したときは、原告は通知、催告を要しないでリース料の全部または一部の即時弁済の請求をすることができる。

2  被告東北リース株式会社(以下、東北リースという。)及び同半田隆(以下、半田という。)は、右同日、右契約に基づいて生じた被告渡部の一切の債務の履行につき連帯保証を約した。

3  被告渡部は、昭和四九年一月以降原告に支払うべきリース料の支払をしない。

4  よつて、原告は被告渡部に対し、昭和四九年一月から同五一年三月までのリース料残額二一六万円及びこれに対する右遅滞した日の翌日である同四九年二月一日から支払ずみまで約定による日歩四銭の割合による金員の支払を求めるとともに、被告東北リース、同半田に対しても連帯保証契約に基づき右同額の金員の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因事実はすべて認める。

三  抗弁

1  被告東北リースは、訴外株式会社デイスプレーデザインサービス(以下、訴外会社という。)に本件物件の設置を二〇〇万円で依頼したが、その代金が支払えないため、昭和四八年六月二八日原告、被告東北リース及び被告渡部の三者間において次のとおり約定した。

(一) 原告は、被告東北リースから本件物件を二〇〇万円で買受け、この代金を同年一一月一五日限り支払う。

(二) 原告は、被告渡部に対し本件物件を請求原因記載の約定でリースする。

(三) 右(一)(二)の約定は、原告が売買代金の支払を右期日までに完済しないことを解除条件とする。

2  原告は、前記売買代金を約定の期限までに支払わなかつた。

3  よつて、前記1の契約は右解除条件の成就により効力を生じなくなつたから、原告の被告らに対する請求は理由がない。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1冒頭のうち、「被告東北リースが訴外会社に本件物件の代金支払ができないため」とある部分は不知、(三)は否認、その余は認める。

2  同2は否認する。

3  同3は争う。本件物件の売買契約とリース契約とは全く無関係であるから、原告が購入代金を支払わなかつたとしても本件リース料の請求には何らの消長も来さない。

第三証拠関係<省略>

理由

一  請求原因事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、抗弁について考える。

被告東北リースが訴外会社に本件物件の設置を代金二〇〇万円で依頼したこと、昭和四八年六月二八日原告、被告東北リース及び被告渡部の三者間で、少なくとも、原告が被告東北リースから本件物件を二〇〇万円で買受け、代金は同年一一月一五日限り支払うこと、原告は被告渡部に対し本件物件を請求原因記載の約定でリースすることを内容とする契約が締結されたことは当事者間に争いがなく、この事実と、成立に争いない甲第一号証、乙第一号証、証人池田温雄の証言(但し後記措信しない部分を除く)、被告渡部茂本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。

1  被告東北リースは、訴外後藤光雄(以下後藤という。)から本件物件所在地の「喫茶オスカー」の内装設備一式の設置を依頼され、昭和四八年三月ころ訴外会社に右内装設備工事を代金二〇〇万円で註文した。同工事は同年六月末ころ完成し、被告東北リースに引渡された。

2  被告東北リースには右代金支払の資力がなく、右工事契約締結のころから同被告と訴外会社との間で代金は原告振出の約束手形で決済する約束があつたので、原告、被告東北リース及び被告渡部の三者間で、同年六月二八日ころ、原告が被告東北リースから本件物件を代金二〇〇万円で買取つたうえ、同物件を被告渡部に対し請求原因記載の約定でリースする旨の契約が成立した。

3  被告東北リースは実質上同会社代表取締役である被告渡部の個人経営の色彩が強いところ、原告は、被告渡部が「喫茶オスカー」に設置した電機設備の連帯保証人になつていることに着目し、本件物件のリース契約の賃借人を被告渡部にした。

4  被告東北リースは、同年六月末ころ本件物件を訴外後藤に転リースした。

5  原告は、同年七月二〇日被告東北リースに対し前記売買代金支払のため、原告振出にかかる約束手形一通(額面二〇〇万円、支払期日同年一一月一五日、受取人白地)を交付した。被告東北リースは、そのころ右約束手形の白地部分を補充しないまま前記工事代金の支払のため訴外会社に交付した。

(なお、これよりさき、被告東北リースは、訴外会社に対し原告の右約束手形の振出が遅れたため、同年六月三〇日同被告振出にかかる約束手形一通((額面二〇〇万円、支払期日同年九月三〇日))を前記工事代金支払のため交付した。ところが、その後原告が前記約束手形を振出したため、被告東北リースは訴外会社から同被告振出の右約束手形を担保として融資を受け、同手形は支払期日に決済されて訴外会社に支払われた。)

6  一方被告渡部は、原告に対し本件リース契約に基づく履行として同年六月二八日契約書作成と同時にリース料の三か月分二四万円を前払いし、さらに同年七月から同五一年三月まで月額リース料を額面とし、各支払期日を満期とする約束手形三三通を振出し、一括して交付した。

7  原告は、同年一一月ころ倒産し、原告振出の前記約束手形は支払期日である同月一五日ころ不渡となつた。一方、被告渡部振出の前記約束手形は同年一二月まで支払われた。

原告は、被告渡部から本件物件の引揚げをしていないし、また、原告と訴外会社との間に何らの契約も存在しない。

以上の事実が認められ、証人池田温雄の証言中右認定に反する部分は前掲証拠に照らしてにわかに措信できず、同証人の証言により真正に成立したものと認める甲第二号証をもつてしても右認定をくつがえすに足りない。

三  被告は、本件リース契約は原告が売買代金不払を解除条件とする特約があつた旨主張するが、本件全証拠をもつてしてもこれを認めるに足りる証拠はなく、被告本人尋問の結果によるも右主張を認めるに足りない。

四  以上認定の事実によると、被告東北リースは、その実体は被告渡部の個人企業と同一視しうるから、本件物件の売買契約とリース契約とは、実質的には原告と被告東北リースないし同渡部との間においてなされたいわゆるリースバツク契約であるとみることができる。

ところで、典型的なリース契約にあつては、本件リース契約書(甲第一号証)にみられるように売買契約とリース契約とは互に個別に存在し、一方が他方に影響を及ぼすことは少いと解されているけれども、いわゆるリースバツク契約の場合には右原則をそのままあてはめることは適当ではない。すなわち、一般にリースバツク契約を締結するサプライヤー(物件の供給者)は、リース会社から融資を受けることが目的であるから、万一、サプライヤーにおいてリース会社から金融を得ることができないとすれば、物件をリース会社に買取らせ、のちその物件のリースを受けるという必要も実益も存しないのである。したがつて、リースバツク契約におけるリース会社とサプライヤーとの間には、リース会社が売買代金を支払わない場合には売買契約は当然解除となり、売買契約と一連の行為としてなされたリース契約もまたその前提を失つて失効するという黙示の契約があるものと解するのが相当である。

そこで本件についてこれをみるのに、被告渡部本人尋問の結果によると、同渡部は、原告振出の前記約束手形が万一不渡となつた場合にはすべてが(リース契約も)御破算になると思つていたことが認められ、また前記認定したところによると、原告は、昭和四九年一一月一五日ころ売買代金支払のため振出し交付した前記約束手形の不渡処分を受けて右代金の支払いをしなかつたのであるから、本件物件の売買契約は解除条件の成就により、右同日ころ、当然解除となり本件リース契約も右解除のときから将来に向つて失効したものというべきである。

五  よつて原告が被告渡部に対し、本件リース契約に基づきその履行を求める請求は失当であり、かつ、右契約の連帯保証を約した被告東北リース及び同半田に対する請求も失当であるといわなければならない。

そうだとすれば、原告の本訴請求はすべて理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 寺澤光子)

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